2019/10/06

喫茶ジェイ オニオングラタン風スープ:400円


喫茶ジェイ
オニオングラタン風スープ:400円
@鳥栖スタジアム


今回、鳥栖に来たのは2つの大きな目的がある。その1つがこの「オニオングラタン風スープ」を食べる事だ。数か月前、残念ながら完全体で食べることが出来なかったこのスープ。あの日以来、玉ねぎを見ては思い出すこのスープの事…。バケットを見ては思い出すこのスープの事…。私は完全にこの”オニオングラタン風スープ”に取り憑かれていた。だから、無理をしてでも、ここまでやって来た。

早朝、東京を出発して6時間。数万円の金を使っても、食べたかったこのスープ。スタジアムグルメというカテゴリーの沼に頭からずっぽりダイビングしている私にとって、時間と金はほんの些細な事。大した問題じゃない。嫁ちゃんもスタジアムに関する事だけは不思議と全く文句を言わず、毎回快く送り出してくれる(なんなら、嫁ちゃんは私がこういうサイト&ブログをやっている事も知らない。ただの「スタジアム大好きおじさん」としか認識していない。まぁ、特別言うような事でもないし、別に間違えていないし、もういいでしょwww)。

ん!?もしかして私は『スタグル・メンヘラ』なのか?

ただ、もし仮にそうだとしても、私にとっては誉め言葉、むしろ勲章だ。誇り高く、その愛と共にこれからも強く生きていく。そして、健康診断で引っ掛かっても恐らくは食い続ける。スタジアムグルメ界隈が飛躍と発展を遂げる片隅で、殉職出来ることに喜びを感じるだろう。

と、言う訳で、手にした”オニオングラタン風スープ・完全版”。

ああああぁぁぁ!!!
ようやく巡り合えたぜぇー!!

事前にパンを忘れないようお願いしていた事もあって、注文と同時に全てを察してくれたジェイさん。鋭い…さすが敏腕マスターだ。良い喫茶店のマスターには、必ず人並み以上の観察眼が備わっていると聞く。これまでたった数回、時間にしても数分しか会っていない私ごときの事を覚えてくれている。”完全版”は、黄金色に輝く黄昏空のようなスープの上に、チーズをのせたバケットトーストが雲の様にフワフワと浮かんでいた。

その美しさに、少年の頃の情景が蘇る。あれはいつの日の光景だっただろう。夏が終わりを迎えた季節。空き地の草むらを駆け回りながら、日が暮れるまで思い切り遊んだ。空き地には雑草が生い茂り、広がり始めた夕焼けがそれらを真っ赤に染めてあげていく。18時丁度に鳴り響く「夕焼け小焼け」は帰宅の合図。どこからともなく夕食を作る美味しそうな香りが漂ってきて、どうしょうもなく家が恋しくなる。重い木の扉を開けた先に待つ温もり。すだれ越しには水を打つ夏の終わりの夕暮れ。そんな美しい光景と重なり合う。

そして、味。
前回、図らずともスープだけを食べる事になったおかげで今回はその比較が出来る。ジェイさん曰く、手間とガス代をたっぷりかけて火を通したオニオンスープは、玉ねぎはトロットロ。優しい甘みとブイヨンの旨みが凝縮していたが、チーズをのせたバケットトーストが乗ると更にコクと甘み、そしてほんのちょっぴり苦みも加わって格段に美味い。スープだけでもかなり美味かったが、それを遥かに上回る旨さだ。

あぁ、これは”大人”のスープだ。
人生の起伏を乗り越えた”大人”にしかわからないスープの味わい、トーストの凸凹は人生そのものだ。山あり谷あり、楽あり苦あり。涙の後には虹も出る。ブラックコーヒーが飲めるかどうか?が、世間では”大人”のリトマス試験紙の様にされているが、そんな単純なものじゃない。この素朴さの甘みの中に存在する、あらゆる旨みを手探りで感じ取る事が出来てこそ、本当の”大人”なんだ。ホッとするような甘さ、考えられないような芳醇さ。その温もりは一瞬の思い出として、私の胸に永遠に刻まれる。

だからこそ、思う。
このスープは、子供の時に感じた夕暮れの不安、寂しさの中に芽生える小さな強さ、ひとりぼっちでいる事の必要性を思い出させてくれる。”大人”になった事の喜びを感じさせてくれる。足も涙も飾りじゃない。飾り立てる事よりも、もっと大事なものがある。

このスープにはいつまでも大事な事を忘れず、キラキラと輝いていて欲しい。