2019/11/25

大助 ごはん:250円


大助
ごはん:250円
@新潟スタジアム


目からウロコ、とは正にこの事だ。
今年、新潟に彗星のごとく登場したこの商品。あまりに当たり前に存在し過ぎて、その凄さに気付かなかったのか?地元の人々にとっては特別なものでも何でもないのか?とにかく、有りそうで無かったこの商品。新潟県民にとってはありふれた日常品かもしれないが、我々県外の人間にとってはこれほど魂が焦がれるものはない。

中身は豪速球ド真ん中のシンプルな白飯。
恐らく、他のスタジアムで販売されていても「ふ〜ん…」位にしか思わないだろう。余程の事が無ければ選ぶことも無い。しかし、ここは新潟。『米』という言葉に『新潟』という魔法がかかると心は一気にヒートする。「おおおおおぉー!!!新潟の米だー!!!」と両手を突き上げ、叫びたくなる。歌舞伎町のネズミに価値はないが、舞浜のネズミには人が群がり、歓声をあげる。それと一緒だ。これはある意味、新潟という米の絶対王者のみがなせる所業。そのシンプルさは、身に着けるものは黒のショートタイツとリングシューズのみ、肘や膝にサポーターも着けない古き良き時代の新日本プロレス「ストロングスタイルの象徴」そのものだ。新日本プロレスでは古くから若手はこの姿で出発し成長していく。我々日本人も皆すべからず米から出発して成長していく。そういう意味では、我々は既に「ストロングスタイルとは何か?」を赤子レベルから叩き込まれている。そう、米は「完璧なストロングスタイル」の体現者なんだ。『いつ何時、誰の挑戦でも受ける!』朝飯だろうが、昼飯だろうが、晩飯だろうが関係ない。肉?魚?野菜?ふぁー、今日もよろしく(笑)。汁物?カレー?シチュー?余裕余裕。ラーメン?うどん?お好み焼き?オーケーオーケー!焼きそばもついでにドンと来い!ってな感じで、全てを受けきった上で完璧に楽しませてくれる。相手の良さを全て受け切った上で、全体をまとめ上げるその姿は正に『KING OF グルメ 』。優秀なプロレスラーは相手がホウキでも試合を成立させる!と言われるが、米もどんな食べ物でも食事を成立させる。世界最強、食い物の頂点は米で間違いない。だからこそ、美味い米は全てを凌駕する。ゆえに、このごはんは、ある意味【最強のスタグル】かもしれない。

と、いうわけで、このスタグルが登場した時、私はすぐにでも新潟に行きたかった。私の頭の中のせっかち君が
『早く新潟にいこーぜー!』と大声を張り上げている。他の頭の中の識者達もこの勢いに完全に押されていた。しかし、ただ一人、頭の中の食いしん坊君だけが冷静に呟く。

『まだだ、まだ慌てるような時期じゃない…』。

そう、せっかく新潟に米を食べに行くのだ。新米が出回る季節まで待ったほうがいい。流石、食いしん坊君はわかってる。この意見には大声を張り上げていたせっかち君も納得せざる得ない。勿論、その季節が来たからと言って、スタグルで販売されている”ごはん”が新米になるとは限らない。でも、多分大丈夫だ。【新潟のコシヒカリ】を謳い販売する店が、この機を逃がすわけがない。これには確固たる自信があった。

そして、月日は流れ11月。

時は来た!!!

当初予定していた時期よりは少し遅れたが、ようやく新潟に向かう時がやって来た。
目的は一つ、"ごはん"。
私の断固たる決意と圧倒的な熱意に施された嫁も急遽参戦。大阪と東京、それぞれの場所から一路新潟に向かう。私達の目的はただ一つ、『美味しい白飯をスタジアムで食べたい!』それだけだ。

そして遂に手にしたこの"ごはん"。
炊飯ジャーから、発泡スチロールの容器に詰め込まれた白飯。この時点で私は確信した。

『絶対に美味い』。

誰が何と言おうが、温かい米を保管する容器として私は発泡スチロールの容器こそが最適格だと思っている。保温性、保湿性に優れた発泡スチロールなら、米を食べるのにベストな温度を長くキープ出来る。『米は炊きたてが一番!』なんて声もあるが、米本来の味と香りを楽しむなら〈少しぬるめ〉の方が絶対に美味い。八代亜紀も『お酒はぬるめの燗がいい』と言っているが、酒とは日本酒、日本酒とは米。そう、米のポテンシャルが最大に発揮されるのは〈少しぬるめ〉なんだ。実際に、この"ごはん"も人肌より優しく少しだけ温かい。香り立つ匂いは赤ちゃん特有のほのかな匂いの様に心を安らげ、悠久の日々を思い出させてくれる。
そして、味。
正直「今まで食べていた米はいったい何だったのだ!?」というレベルで衝撃を受ける。口当たりの時点で、既に今まで食べたどの米よりも美味い。米の甘みが芳醇に広がるこの感覚は、少なくとも自分が今まで食べてきた米とは完全に異なる種類の食べ物だ。ぶっちゃけ、米自体に含まれている旨味の含有量の桁が違う。

コレが本当に美味い米なのか…。

最初はじっくりと込み上げてきた米の味が徐々に強くなっていく。それが強まる事はあっても弱まる事はない。噛み締めるたび、口の中を強烈な米の味が支配する。それは口の中から米が無くなっても潰えることなく、悠久を錯覚させる余韻となっていつまでも力強く残り続ける。

しかし、それにしても何故こんなに美味いのか?私だってこれまで歩んできた40年以上の人生の中で「美味い!」と言われる米は食べてきた。米の味にうるさかった親父の影響で、家の米はいつだって最上級のコシヒカリが用意されていた。日本最高の米と言われている「魚沼産コシヒカリ」だって何度も食べた事はある。
でも、これは明らかにレベルが違う。何故なのか?

答えは『水』だ。

以前、ある酒造が自家栽培の米で酒を醸したとき、イマイチまとまりに欠ける酒になったという話を聞いた事がある(ワインはブドウを原料としている関係から、収穫後すぐに利用する必要がある。だから、ワインはブドウを収穫した場所でしか作ることが出来ない。しかし、日本酒は米を原料としているので、米さえ手に入れば何処でも作る事が出来る。杜氏が醸したい酒に適した米を自由に選ぶ事が出来る。これはある意味日本酒の優れた利点でもある)。ただ、醸す際に使う水を米栽培に使用していた水と同じものに変えたら、一気にまとまりのある酒が出来たらしい。これと同じじゃないだろうか。恐らく、白飯の美味さを決定づけるのは、とぎ方や炊き方以上にどこの水を使用するかが大事なのだ。新潟の米は、新潟の水でとぎ、新潟の水で浸漬し、新潟の水で炊き上げて、初めて"新潟の米"になるのだ。新潟の水を使用して初めて"新潟の米"は完成するのだ。だから新潟で食べる白飯は美味いし特別なのだ。これは新潟でしか味わえないのだ。

そう言えば、一口食べた嫁ちゃんは「豚汁!」と一言残しどこかに消えた。豚汁が大好きな嫁ちゃんは、この米には豚汁しかない!と、本能で嗅ぎ取ったのだろう。数分後、帰ってきた嫁は米と豚汁を交互に口に運びながら、ひたすら「美味しいYO〜…」と呻いている。「もう、新潟に移住しようYO!」と、あながち冗談とも思えない事を主張している。君、寒いの苦手でしょ?絶対に無理だと思うけど…。でも、その気持ちは理解できる。それぐらいの価値をこの”ごはん”は見せつけてくれた。

ただ、それ以上に理解した事もある。あぁ、この”ごはん”はもう私の元に帰ってこないな…。

まぁ、いいよ…。
私は君から幸せを取り上げる様な事はしたくない。君が幸せな事が私にとっては一番だ。私は静かにごはんに別れを告げた。

白飯に染まったこの俺を、慰める奴はもういない。


このスタジアムには”ごはん”に合う”おかず”メニューも沢山用意されている。
勝手丼スタイルで”ごはん”片手に場内を練り歩き、おかずをどんどんのせていくのも楽しいぞ。