静月
日本酒「勝駒」:600円
@富山県総合運動公園陸上競技場
私は日本酒が大好きだ。
味そのものだけでなく、文化として、哲学として、そして何より日本人として、日本酒をこよなく愛している。だから、ソムリエの資格だけでなく、去年からJSA日本ソムリエ協会が認定を始めた日本酒全般の資格「SAKE DIPLOMA」も取得した。自慢じゃないが筆記は自己採点で満点だったし、テイスティングのテストもほぼ満点だったと確信している。まぁ、私自身は体質的にアルコールを受け付けないのでほとんど飲めないんだけど、こと日本酒に関しては少しなら飲める。そして、日本酒の味を見極めるという点においては些かの自信もある。なので、仕事を通じてこれまでありとあらゆる日本酒を試飲してきた。それこそ、俗に言うレアと呼ばれる日本酒もほぼ全て銘柄は口にしたことがある。その度に「日本酒」という飲料の幅の広さと奥深さに感銘を受けてきた。
ただ、一般的な日本酒のイメージとしてはどうだろうか?「悪酔いする 」「二日酔いになりやすい」「匂いがキツイ」「男の飲み物」「ベタベタする」等など悪いイメージを持っている方も多いのではないだろうか?学生時代に安いチェーン居酒屋の飲み放題での思い出や、某グルメ漫画の悪質な印象操作の影響も少なからずあるだろう。確かに、そういう日本酒が市場に出回っていることは否めない。いや、むしろ一般的に手軽に購入できる日本酒はこういう酒が目立っている。これらのイメージを覆す日本酒は数多くあるのに、残念な事にそういう人には全く届いていないのが現実だ。実際、私がこよなく愛する新世代の銘酒「新政」も、手頃な価格帯からは想像もつかない程のクオリティーを持つが、一般の人はその名前すら知らないと思う。他の評価の高い日本酒にしてもそうだ。知っていても売っている所を見たことがない、だから飲んだことがない、だから日本酒のイメージが変わらない、のではないだろうか。実際、これらの銘柄については元々の生産本数が少ない上に取り扱い店舗も限られ、しかも、その店舗の中でも一定の顧客(特に飲食店)を中心に販売されている。一般客が手に入れるにはその店に通い詰め、店の中で権限を持つ人間(基本、貴重な酒を販売する権限は一般の店員には与えられていない)に覚えて貰って融通してもらうか、インターネットで何倍にも跳ね上がった管理状況に不安のある非正規ルートで購入するしかない。あ、購入時に付与されるポイントを使って購入するという店舗もあるね。とりあえず、手に入れるにはハードルが高すぎる。ましてや、超人気酒の数量限定品ともなれば大手酒販店でも手に入るのはほんの数本。どこに卸すのか?会議を行う会社もある。一般の方の入手はほぼ不可能に近いだろう。
だから、いくら素晴らしい酒が沢山あろうとも、一部店舗と愛好家が囲い込んでしまうので、本当の日本酒が持つ素晴らしさが中々世間一般に浸透しない。
ガラパコス化。
ガラパコス化。
これは「日本酒」というカテゴリーが持つ大きな課題なんだ。
さて、前置きが長くなったが本題に入る。
日本酒「勝駒」。
日本酒「勝駒」。
富山を代表する銘酒であり、「入手困難」という点においてはSSSクラスと言われる酒である。元々造り手5人で大量生産では出せない旨さを醸す為、少量生産に拘り続けている蔵で、「真の贅沢を知る酒」とも評されているこのお酒。それゆえ、全く需要と供給のバランスが取れていない。地元富山ではまだマシかもしれないが、それ以外の地域では世間一般は勿論の事、愛好家の間ですら全然供給が追いついていない酒だ。私もこれまで蔵のフラッグシップである「大吟醸 特吟」「大吟醸」「純米酒」「特別本醸造」は頂いたこと事があるが、上質なフルーティーな香りと、品のある一本筋が通った旨さ、そして、そのまま体液になるかの様な浸透性に思わず背筋がピン!と伸びた記憶がある。
そんな「勝駒」がスタジアムの売店で販売している。完全にパニック。理解が追いつかず、頭の中がチンチラポッポーだ。
いくら地元・富山とは言え、まさかスタジアムにあるとは思いもしない。だから、見つけた時は似たような商品じゃないのか?と疑い、思わず自分のデータベースでラベルを確認した。そして、この酒が本物の「勝駒 特別本醸造」である事を確信した。
しかも、一合(180cc)でたった600円。
東京に住んでいた人間からすれば、正気の沙汰とは思えない価格だ。
飲みたい‥めっちゃ飲みたい…。
ただ、上記の通り、私は最上級の下戸である。一合なんて飲み切れるわけがない。その半分でも厳しい。朝の五時に起きて寝不足のままここまで来ている。多分、半分も飲んだら間違いなく寝てしまうだろう。ただ、残念ながらこの状況で買わないという判断基準を私は持ち合わせていない。だから買う。そして、飲む。
旨い!めちゃくちゃ旨い!
穏やかながら膨らみのある芳香、綺麗な口当たり、芯の強さを感じさせる確かな骨格と仄かな甘み。多分知らずに飲んだら高級酒と確信してしまうだろう。それ位の完成度だ。しかも、驚くべきはこのお酒。一升瓶(1.8L)の定価は2100円なのだ。
信じられない…。
兎にも角にも、富山に来たら「勝駒」だ。見つけたら絶対飲んだ方がいい。富山には他にも満寿泉や羽根屋など素晴らしい日本酒が数多くあるが、それはそれ。「勝駒」に「厚み鱒寿司」「焼きカキ」等を合わせれば、もうサッカーどころじゃない。それはもう素晴らしい至福の時を迎えるだろう。ただ、くれぐれも私のように、気が付いたら前半途中から試合終了するまでの記憶が全くない…なんて事にならないように、飲み過ぎだけには十分に気をつけてね。