2021/05/05

アンキュイジーヌ NeMo'n シャリアピンステーキボウル:800円


アンキュイジーヌ NeMo'n
シャリアピンステーキボウル:800円
@三ツ沢球技場


『シャリアピンステーキ』
個人的には何とも懐かしい響きだ。

知らない方に説明すると『シャリアピンステーキ』とは帝国ホテルが世界に誇るスペシャリテ。昔、歯痛に悩まされていたオペラ歌手フョードル・シャリアピンの柔らかいステーキが食べたい!という要望を叶える為、当時帝国ホテル「ニューグリル」の料理長だった筒井福夫氏が考案。よく叩いて薄くした牛肉を玉ねぎに漬け込むのが特徴の世界でも類を見ないステーキ料理だ。私は昔、帝国ホテル出身のシェフ(「俺が、俺こそが、シャリアピンステーキの伝道師だぁ~!」とよく言っていたのを覚えている)と一緒に仕事をしていた時に、このステーキをよく食べさせて貰っていた。「めっちゃ美味いっすよ~!天才っす!ワインが咽び泣いてますよぉ~!向こうから求婚していますよぉ~!とろんとした目で抱かれたがってますよぉ~!どんなワインでも合う、ソムリエとしてこんな楽な仕事無いっすわ!いやー、こんな料理ばかりになったら、ソムリエの仕事無くなりますよぉー!流石!よっ、伝道師!」とおべんちゃらで煽てまくっていたら、アホみたいに何度も食べさせてくれた。オカンに「これ、美味いな!」と言ったらその後事ある事に晩飯に登場するあの現象と一緒だ(個人的に、オカン・メトロノーム現象と名付けている)。もう、正直飽きるぐらいシャリアピンステーキばかり食べさせられていた。だから、本物の『シャリアピンステーキ』がどんなものか?は人並み以上には知っているつもりだ。

その観点からみれば、これは『シャリアピンステーキ』じゃない。ソースは仄かに香るトリュフの風味が心地よく、これはこれで素晴らしい。だが、肉がイカン。だって、サイコロステーキなんだもん。しかも、成型肉ときた。あの激安スーパーとかでよく売ってるアレね。私の体はこの成型肉を受け付けない。昔、2.3個食べただけで気持ち悪くなってしまい、吐きまくった過去がある。なので、このサイコロステーキを見るとあの時の光景がフラッシュバックする。今回も試しに一齧りしてみたがやっぱりダメだった。不自然な食感、不気味な味わい、滲み出る肉汁もどき…。その全てに体が全力で拒絶する。舌が硬直したまま上顎に引っ付いて取れず、喉まで物体が流れない。申し訳ないが、生命の危機を感じてしまったので肉はほぼ全て残してしまった。多分、食糧難に陥り、全ての食料が全自動機械生産された近未来都市で私は生きていけない。

しかし、このサイコロステーキを受け入れられる人ならアリだと思う。『シャリアピンステーキ』にこみ上げる熱い気持ちが無いのなら簡単に受け入れられるし、このボリュームでこの値段ならかなりサービス精神に溢れている。たっぷり野菜が添えてあるのもいい。

ただ、私はこの『シャリアピンステーキ』を抱きしめる事は出来ない。それだけの話だ。